2016年07月18日

竜と流木(篠田節子)

竜と流木 -
竜と流木 -  2016.5

南の小さな島の泉でそっと生きてきた生物ウアブ。説明からだとウーパールーパーのようなもの。島が開発され泉が無くなることになり愛好者たちは隣の島のリゾートホテルの池に移植することにするが・・・
自然と共生した島の暮らしに踏み込むリゾート開発、南国の自然を売りにしたホテルの敷地内は作られた自然だ、とか、ワニやイモリなど時には人間を襲う動物ともうまく共生してきた島の暮らしに相対するホテルの自然など、自然をそのまま守ることの難しさ、人間の都合によって自然を作り換えても、そうたやすく自然は屈しないぞ、といった警告を発している。
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2015年12月29日

となりのセレブたち(篠田節子)

となりのセレブたち -
となりのセレブたち -  2015.9.20

小説新潮に掲載された5つの短編を集めたもの。
中でも「人格再編」は現在の長寿社会に強烈な皮肉の矢を放っている。
舞台は2040年あたりか。介護保険制度は成熟し在宅介護に移行し、核家族化は止まり親との同居があたりまえになっておりおまけに少子化対策も行き届き、「痴呆症」は差別語となり「緩穏傾向」に置き換えられ、しかし不自然な延命措置は医療保険の破綻から無くなり、食べられなくなった時が死にどき、となっている。・・これって理想じゃね? いやいやそうはいかないのだ。なおも生きている老体のメンタルな人格変化~家族に悪態をつくばあさんに対応できない家族が訪れたのは、最新の脳外手術による正しい人格の創出手術。

しかし理想の人格となったやさしいお婆さんが理想の人格のまま死んだ時、家族は喪失感から立ち直れなくなってしまったのだ。「介護の負担さえなく死んでゆくから、家族は葬式を出したあとの解放感を味わうこともない」のだった。そして人格再編施術を編み出した医師に「立派な老親などいらない、老いと死の実相を見せつけ、若さや人生のはかなさを見せつけるのが老親の役目だった」と悟らせる。

発表は2008年。変化形が「長女たち」か。

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2015年12月27日

冬の光(篠田節子)

冬の光 -
冬の光 -  2015.11.15

夫が研いでくれた包丁をとり、妻はやおら一瞬刃を夫に向ける。そこからページは始まる。
そして夫の溺死体が上がり「最後の最後までやっかいをかけて・・」で本編が始まる。
夫は四国遍路からの旅行の帰路、62歳で海から身を投げた(と思われる)。父の四国遍路の旅程を追って四国を辿る娘の碧の行程と、父の時系列の文章で、徐々に父・夫の心情、行状が明らかになる。

主人公は震災のH24に62歳で死んだとあるのでs25生か、妻は5歳下とあるのでs30生まれあたりだ。とすると、妻が篠田氏の年齢と重なる。

娘の碧は、「中高年の自死」をテーマにした雑誌の取材を受け、「闘争の世代に属し、大企業につとめていたが、55歳で子会社に出向後、実父の介護もあり定年を待たず退職し4年近い介護の後実父を看取る。その後東日本大震災が起こり、ボランティアで現地に援軍に行き、一通りの活動が終わった8月、四国巡礼に行くと言って旅立った」と語るが、それは父の表面でしかない。父には母以外に心の奥に住む別の女の存在があったのだ。

大学時代に惹かれあった同級生同士。しかし結婚することはなく、それぞれの道を進み、男は家庭を持ち孫も生まれた。女は研究者の道を進み、1人津波の渦に呑まれた。しかし途中で偶然にも再会して、女は男の「心の奥底に住みついてしまった。」
「大人の男女の出会いや別れに、告白も宣言もない。いや、色恋に限らず、日常的な人間関係もそんな風にいつとはなしに始まり、いつのまに疎遠になって終わっていたりするものだ。そして気がついてみると、再び始まり、数十年と続いていたりする。」

この小説では、学歴は無いが気のきく常識的な妻と、対等な会話のできる別の女 だが
対等な会話のできる妻対、かわいい別の女 というミラーストーリーもあるだろう。

篠田氏のインタビューによれば、「ある男の人生が見せる社会の深遠」 本の話Web 2015.12.2
「老境を目の前にして、自分が歩んできた小市民的な人生に意味を見出せなくなる、実存的な不安のようなものを描きたいと思いました。・・失われた自分の根っこを探す場所はどこだろうと考えたときに、やはり宗教に近づき、しかし宗教にはじき出される現代日本人の精神構造に行き着くかと。・・若い碧はその景色~冬の光~を見て涙をこぼしたりするけれど、父の抱えたものはわからない。それでいいし、それが親子だと思います」とある。

篠田氏は、主人公・康宏に、思う女、行きずりの女にいともたやすく偶然の出会いを用意していて、それに乗ってしまうヤスヒロさんがなんだか滑稽で、「おバカさんねえ」、とナレーションを入れたい。最後の「冬の光」の描写は、人によっては泣かされるかもしれないが、妻の立場でみると、「何をいまさら」とでも言うかもしれない。包丁の描写とか、その他の折々の妻の描写はとてもリアルでうなずけるものだ。しかし、ヤスヒロの震災後、退職して親も看取り、孫もいて、妻と行くドライブの空虚感はうなずけるものがある。うなずけはするが、篠田氏は妻に自分ひとりの墓を買わせており、それは妻が「冬の光」を撮ろうとした夫を後で知っても墓には1人で入るに違いない。いやどうだろうか。

今までにも、「逃避行 」で飼い犬を連れて家を出る主婦、 「銀婚式」では題名の通り銀婚式になろうとする夫婦が描かれているが、いずれも最後に救いがあったように思うが、それに比べこの「冬の光」はなんとも、夫婦、人生について考える時、う~んとうなってしまった。同じ愛人がいた桐野夏生の「魂萌え」も夫の死から始まるが、こちらは死後に残された妻の新しい門出を描いており、夫に対しては死後に初めて愛人の存在を知ったので「まっッ、しょうがないワ」となるが、「冬の光」は長い夫婦生活の間の葛藤が描かれた挙句の死なので、割り切れない思いが残るのだろうか。そういう点で篠田氏の「実存的な不安」を描きたいというのは成功しているのだろう。だけど、こと自分について考えると、来年、還暦を迎え定年を迎え、サア解放された輝かしい60代を謳歌するのダ、と思っている所なのだが。。
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2015年01月25日

インドクリスタル(篠田節子)

インドクリスタル -
インドクリスタル -  2014.12.30

惑星探査用の高性能水晶振動子を作るため、精度の高い水晶の原石を求めてインドのある村にやってきた、山梨の小さな水晶デバイスメーカー社長の藤岡。その村はインドでも先住民族の住む村で、水晶を得るため藤岡は地主、NGO、宝石商、インド人経営者、先住民、などインド社会の様々な階層の人たちと接触するが、インドの複雑な民族の歴史としたたかな現状に翻弄されていく。

著者デビュー25周年記念出版とあるが、県庁所在地の書店にはあったが悲しいかな地方小都市の我が市には無かった。。篠田氏のインタビューなどによればインドの鉱物とその周辺に住む多くの部族に興味があり、その部族の話を書きたかったと言っている。「小説ではなく大説」で、日常身の回りのことを書く小説ではなく、大説、世界にはこのようなこともある、ということに思いを馳せてほしいと言っている。今までにも「ゴサインタン」「弥勒」などネパールあたりが関係するものがあったが、その系譜か。

不思議な能力を持つ部族の少女ロサと、一筋縄ではいかないインドの民、そこで必死に己の仕事をまっとうせんとする藤岡。暑くて湿気があるのでは?と想像するインドの熱気が伝わってくる。国は違っても人間個人は分かりあえる、とはよく言われるが、ここではやはり国情の違いは大きな岩である、と感じる。

角川書店の宣伝ページ インタビュー動画あり

毎日新聞 思考と文化14 インドクリスタルの舞台について 2012.5.1

産経新聞 記事 構想10年 2015.1.19

ダ・ビンチ 新刊著者インタビュー 2015.1.6

東京新聞 土曜訪問 2014.12.13

週刊ポスト 著者に訊け 2015.1.16-23号

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2014年12月30日

ルーティーン(篠田節子)

ルーティーン: 篠田節子SF短篇ベスト (ハヤカワ文庫JA) -
ルーティーン: 篠田節子SF短篇ベスト (ハヤカワ文庫JA) -  2013.12.25
10の短編が収められている。「子羊」「世紀頭の病」「コヨーテは月に落ちる」「緋の襦袢」「恨み祓い師」「ソリスト」はすでに単行本等に収録済み。「沼うつぼ」「まれびとの季節」「人格再編」が雑誌に発表のものがここに収められ、標題の「ルーティーン」は書きおろし。

「ルーティーン」は団地に妻と子供二人がいるサラリーマンの話。ある日の帰宅途中、夢遊病のように家の前を通り過ぎる。以後名前を無くして1人で工場労働者として20年。でまたある日フラッシュがたかれるように元の団地の扉を開けると、何事もなかったかのように「おかえり」と迎えられる。「父帰る」ではなく、自分は失踪しているのに、別の自分がいる生活があった。人生も中盤を過ぎると、振り返った年月は夢かうつつかわからなくなる。そんな感慨がやけにリアルに迫ってくる。
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2014年12月24日

ミストレス(篠田節子)

ミストレス -
ミストレス -  2013.8.20

恋愛に関する5編。いずれも幻やホラーがある篠田ワールドでの恋愛様態。

「やまね」は冬眠する習性がある弱弱しい女性に恋してしまう男性の話。5編の中では一番きらいなタイプの女性なのだが、読んで印象に残ってるのがこれとは皮肉。
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長女たち(篠田節子)

長女たち -
長女たち -  2014.2.14

いずれも兄弟姉妹がある長女と母との関係を描いた長編が3つ。一番あるあると印象に残ったのが最初の「家守娘」

2人の姉妹。勉強のできた優秀な長女。結婚して一子をもうけるものの子供を置いて離婚し実家に戻ってきた。方や勉強はできなかった妹は夫の両親と同居し、「嫁」として「主婦」として世間並みの常識とともに「成長」してゆく。今やぼけ始めた母の面倒は、ひとり長女である姉にかかっている。妹の前では母は正常で、婚家が大事とまったく妹は母の面倒を見ない。ついに姉はボケ始めた母の面倒をみるため会社をやめてしまう。「自宅で不愉快な年寄りと二十四時間付き添うのに比べれば、会社の仕事など遊んでいるようなものだ」・・・まったくその通り。よく言ってくれたぞ、篠田さん。とはいえ、付き合っていた男にだまされそうになると、結果的に土地と母という最大の重圧が姉を救う事になったりと、最後には母に花を持たせるところが、篠田氏のやさしさか。うーん、しかし、しかし、まったく戦前の価値観で生きている母は重いぞ。重すぎる。家守り娘が完全に自由になるのは母の死をもってしかない。この感じ、嫁に行った妹には分からないだろう。
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2013年02月11日

ブラックボックス(篠田節子)

ブラックボックス [単行本] / 篠田節子 (著); 朝日新聞出版 (刊) 2012.1.30

生野菜サラダを作る24時間体制の工場に勤める栄美と、その工場に提供する野菜を作っている剛と、土無しのコントロールされた食物生産を画策する企業を軸に、食と農業の未来を問う。

さる事件で会社をやめ田舎に戻りサラダ作成工場に勤める栄美。土無しでコントロールし無農薬に近い野菜を作るろうとする会社にとりこまれていく代々の農家の跡取りの剛。そこにサラダ工場に勤める外国人労働者、あくまで新鮮な野菜サラダを求めるコーヒーチェーン店と客、新しい農業生産組織を作った若者たち、離婚して学校の栄養士になった聖子、その学校で頻発するようにみえる児童のアレルギー、学校給食や病院の食事に進出するファミリーレストラン、など生野菜サラダを中心になにかおかしいのでは?といった事件、事柄が示される。ブラックボックスとは野菜を作る剛の建物である。

最近では当たり前のように買うパック入りサラダやカット野菜。今までそれがどのように作られているかなどあまり考えることなく便利な昼食として利用していた。がこのブラックボックスを読んだ後は買うのをやめようかという気になった。しかし毎日ではないにしろやはり買ってしまうんだろうなあ。

庭先の自家菜園があったとしても、それだけでは賄いきれない現代の食生活。食べる事とは、食べ物を作るとは、を改めて考えさせられる。

設定は海沿いのとある小さな町。40歳くらいに設定された主人公たち、生きるために懸命である。なにか「女たちのジハード」と「ロズウェルなんか知らない」を彷彿させる。

「毎日新聞 本と人」 (毎日新聞 2013年01月27日)によると、
「一番やりたかったのは、先端技術の中に人間の知恵の限界が潜んでいるのではないかということ。技術が暴走した時、まさかと思うようなささいな落とし穴があって問題が起きる。私たちは経験的に知っていることですが、なかなか取り上げられない」というのが篠田氏の書きたかったことのようです。管理され養分も計算しつくされた筈なのに、剛のブラックボックス内では停電、漏水など予期せぬことが起きる。計画するのも人間なら予防策を練るのも人間。農業に限らず、医学、車、原発などにも言えることだなあとこの氏のコメントを読み感じました。

作家の読書道 篠田節子インタビュー




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2012年11月22日

家鳴り(篠田節子)

家鳴り (集英社文庫) [文庫] / 篠田 節子 (著); 集英社 (刊) 2012.9.25

日常生活が、ふとしたことからズレていく。ずれは思いもかけない方向に進み加速度を増す。気がつくとまったく違ってしまった自分と家族と日常になってしまっている。そんな静かな恐怖を描いた短編7作。

中でも「幻の穀物危機」が鋭い。幼い子と妻と3人、脱サラをして山梨のペンション村に引っ越して喫茶店を営む主人公。周りには穀物危機が来ると信じて疑わない同じ脱サラ組の農業者もいる。そんある日東京西部で大きな地震が起き続々と東京から難民がやってくる。生活機能がマヒし食糧が手に入らなくなったのだ。それは東京のみならず県都の甲府でも起きていた。そして田舎にいながら農地を持たない主人公も食べ物が底をつく。穀物危機は外因ではなく地震による内因でも起きたのだ。そして食べ物を求めて主人公がとった行動は・・・

初出は1999年と今から10数年前だが、3.11の放射能による原発からの人々の移動がまだなまなましい今、ものすごくリアルである。周りの状況で思ってもみない行動が日常になってしまう様に背筋に冷気が走る。

そのほか表題の「家鳴り」は、夫の望む行動をしてどうしようもなく太ってしまった妻。ギルバートグレイプのお母さんを思い起こす。

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2012年02月05日

銀婚式(篠田節子著)

銀婚式 [単行本] / 篠田 節子 (著); 毎日新聞社 (刊) 2011.12.8

題名からもわかるとおり、銀婚式になろうとする男女の物語。主人公の高沢修平は自分の信じるとおり、真面目に人生を進め、妻を愛し、仕事にまい進してると思っていた。だが妻とは結婚10年足らずで図らずも離婚となり、会社は倒産。そして倒産後の残務処理を終え5年間のニューヨーク勤務から帰るとあの9.11が起きてニューヨーク時代の友が亡くなった。。 とここまで最初の方で書かれ、銀婚式というとほとんど同世代だろうなあ、篠田氏と同じ年齢設定なのか、設定はどうなってるのかと気になるが、「就職したのは、空前の就職氷河期だった」 う~ん、昭和の時代に氷河期という表現はあったかなあ、とそこが気になってしまい、会社の倒産は山一を匂わせ、36歳で海外勤務になり5年間いたんだから帰ってきたのが41歳位だ。帰国半年後に再就職してその後の9.11は2001だから・・と逆算すると昭和35年生まれ位の計算になる。すると就職は昭和58年。で調べると昭和58年は第二次石油ショックだったらしい。すると不況だったのか。。 昭和50年、自分が大学に入ってから出るまでこと就職時期になると不況不況とテレビが言っていた、という記憶。50年代はずっと不況だったのか。。 帰国後2,3年しての9.11としても修平の設定は昭和30年代前半生まれとなりやはり自分と同世代となる。と、読んでる最中はそこら辺が調べるのももどかしかったので、今やっとすっきりした感じ。

それはさておき、いつもの通り物語はグイグイ進みページをめくる手は止まらない。修平の帰国、再就職、また失業、そして地方大学への講師としての就職、自分の親、(元)妻の親の介護と死、息子の受験、結婚、ともう、まさに銀婚式になろうとするものが経験することが盛りだくさんに描かれている。仕事への対処、子供への対処。主人公の修平はいたって真面目ないい人。そして妻もそうなのだ。だがそう、人生は素直には進まないんだよね。ほんと25年もあればいろいろな事が起きるワ。
最後のページの言葉は、自分のことと重ね合わせ、静かに音の余韻が続く。


自著を語る(中日新聞)
e本インタビュー
刊行記念対談 弘兼憲史と
honyaclub 日販発行:月刊「新刊展望」2012年2月号 より
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2011年09月16日

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか(篠田節子)

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか [単行本] / 篠田 節子 (著); 文藝春秋 (刊) 2011.7.10

「オール読物」に初出された短編4作。アマゾンの中身拝見で「深海のEEL」を読んで、もう続きを読みたくなって書店に走った・・ が発売日から2ヶ月経って、引き上げられたのか無かったのでamazonで注文。

今回の4作は少しSFの要素を持ったもの。

「深海のELL」はウナギの物語。駿河湾の底引き網から巨大ウナギが次々に網にかかる。ウナギは海で生まれ川に上り川で成魚になるので海底から成魚があがるのからして不思議なのに、目が異様に光り・・ しかしなんとか売りさばいた先でそれを食べた人は次々と異常をきたす。・・とくれば、何、何?となる。光るのはレアメタルで、それをめぐって回転寿司チェーンと、貴金属産出を狙う大企業が絡み、庶民の口にのぼるスシネタは実は・・

「豚と人骨」は、都会の一等地を遺産相続することになった3兄弟。親の敷地を更地にし、そこにマンションを建てようと地面を掘ったら、さあタイヘン。古代人の、しかも女性ばかりの人骨がたくさん出てきてしまったのだ。一体これは何だ? 
今まで顔も見せなかった妹弟が相続時に遺産分配のためにやってくる。長男の務めを果たし、親と妻に文句を言われながら、やっと親を看取った・・片付けた、とさりげなくこういう文章も入っているのは篠田さん自身一人っ子で親の重圧の実感があるからか。

「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」は、メルヘンがらみの人工知能の話。

「エデン」これが一番よかった。寺の跡取りのハルユキは修行に入る直前の休暇を楽しんでいたが、訳も分からず追われる身となり、クラブで知り合ったブレンダの手引きで逃げ延びた・・ようなのだが、連れて行かれたのはさる極寒の地。そこでは63年の工期で地下にトンネルを掘る工事をしていた。ちょうど工期は30年くらいが終わったところだった。村人はテレビも見ず娯楽の本も読まず、唄うのは賛美歌、夕食を食べれば8時には皆眠りに付く。そして朝からトンネルを掘る。地面が凍る真冬の2週間が唯一外界とつながる期間。その他は泥湿地で陸の孤島となる地。
食って寝て働いて子供を作って・・ エデン・理想の郷とは何か? 63年後の「あっちの世界」はどうだったのか。地下トンネルの向こうから深く問いかけられる。
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2011年01月29日

廃院のミカエル(篠田節子)

廃院のミカエル [単行本] / 篠田 節子 (著); 集英社 (刊) 2010.11.30

おっと、最新刊が出ているではないか、と本屋で見つけさっそく読みました。読み出したら止まらず、一気読み。

ギリシャの現地商社員の美貴と壁画修復師の吉園、ギリシャ人と結婚したものの夫の事故死により未亡人となった綾子。このワケ有り3人の日本人がギリシアの廃院・・修道院、街を舞台に繰り広げる、ぞっとしたり、おやっと思ったり、ほっとしたりの行状記。例によってなどと言っては悪いかもしれないが、行く手の道は現れたりつながったり、迷い込む修道院に現れる、あるはずもない影とか声とか異体とか。やはり見えざる霊魂かはたまた呪いか、とどきりとさせといて、オーストラリアから来た青年が科学的なキーワードとなった。

以前の「ホーラー死都」もエーゲ海が舞台でやはり幻影が出てきてちょっと似てる感じですが、こちらは主人公の美貴にがんばれよ!と声をかけたくなる爽快さがあります。これ男性が読むとまた別なんでしょうか。篠田さんに出てくる女性は、私はリアリティーを持って読めます。

本の表紙の修道院と裏表紙の街並みがとてもいいです。どちらも文中に現れる雪が舞っており、本文を読みながらこの絵を見ると、「ギリシアにはあちこちに修道院がある」という風景と、現れる幻影が頭の中でより想像をかきたてられます。装丁:片岡忠彦
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2010年04月16日

スターバトマーテル


スターバト・マーテル

スターバト・マーテル

  • 作者: 篠田 節子
  • 出版社/ 光文社
  • 発売日: 2010/02/19




主人公は42,3の設定か。お互い家庭を持った中学の同級生。スイミングクラブで偶然出会う。水着姿のまま姿を認めると、かすかな中学時代の意識が蘇る。好きとまではいかない、なにかひっかかる存在、そんな感情。中学では意識の底に沈んでいた感情が、30年近くを経て互いの人生のなかにからまっていく。

男も女もそれぞれの家庭で、会社でうまくいっていたわけではなかった。いや過去にはそれぞれのパートナーと、子供と楽しい時期もあった。しかしプールで出合ったその時は違った。それぞれ決着をつける状況だった。

スターバトマーテルとはカトリック教会の聖歌で、わが子キリストが磔となった際の聖母マリアの悲しみを歌った歌。二人の抱えているそれぞれの歩んできた人生への悲しみの聖歌と言えるかも知れない。

中学時代の無意識の感情が、時を経て顕在化する、というのでは村上春樹の「IQ84」の青豆を思い浮かべた。再開した男女の結末では、映画「愛の嵐」を思い浮かべてしまった。愛の嵐はちょっとヘヴィーですが。

「こんなことになるんじゃないかと思っていた」という男の言葉がすべてを言い尽くしている。

人の人生を読む、これもありか、小説の醍醐味を味わえる中篇です。

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2009年10月17日

薄暮(篠田節子)


薄暮

薄暮

  • 作者: 篠田 節子
  • 出版社/: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/07/01




日経夕刊で連載されてたものが単行本になった。
連載中は毎日夕刊を読むのが楽しみだった。

美術出版を手がけていた編集者がふとしたことから新潟の油絵画家を知る。それは一般の雑誌に掲載された女性エッセイストの文によって紹介された今は亡き地方画家だった。たまたま女性エッセイストが食事をした料亭の部屋に飾ってあった絵になぜか心惹かれたというものだった。

読者の反響の大きさにその画家を調べていくうちに、なぜか画家に冷たい地元公立美術館、かたや熱心な地元市役所の観光課職員、在野の美術評論家、画家のパトロンでもあった地元商店主たち。そして大きな鍵を持つ駆け落ちで結ばれた画家の妻。そして画集出版を思い立つ編集者。それらの人物と新潟という土地、寒い冬、とが交差して物語は進んでいく。それらを覆うのは絵を説明する文章だ。語られる「絵」によって凍てついた冬の薄暮が黄色い明かりとともに行間を漂う。

こうなってこうなるか、あぶりだされる人々の様々な生き様。読後感は静かだがやはりいつもの篠田ワールドが楽しめた。

著者インタビュー 毎日jp




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2009年04月29日

夏の災厄(篠田節子著)

メキシコからの直行便では安心したことに感染者はいなかったようです。備えあれば憂い無し、なのでしょうが、こと何も起きてない時にはノアの箱舟のように、何やっとるんかねー という目で見られてしまうわけですが、起きてしまった、ということなのでしょうか。

大正時代のスペイン風邪は父の子供の頃はやったようで、なんと妹がかかって一命をとりとめたと何かのおりにきいたことがあります。

そんななかで、いくつかの病原体感染パニック小説&映画を紹介しましょう。

まずは篠田節子の「夏の災厄」1995.3初版

夏の災厄 (文春文庫)
夏の災厄 (文春文庫)
(中身検索で最初の6pが読めます)

これはとある地方の小都市で起こった、いわば”ひと夏の経験”です。体がだるい、熱があるといって訪れる市の救急外来。日を追うごとに患者は増大し市は一大パニックに陥る。病名は「日本脳炎」とされますが・・・ ここでは幸運にもひとつの市域だけで世界には広まりませんでしたが、異常時の行政の対応、鍵をにぎる、とある動物と身近な設定が逆に身に迫ってきます。流行はいずれ収まるもの、発端、拡散、収束、の経緯が曲線グラフのようです。

アウトブレイク [DVD]
アウトブレイク [DVD] 1995アメリカ

次ぎは映画「アウトブレイク」 なんと作られたのが「夏の災厄」とおなじ1995年です。
 これは恐るべき致死率の伝染病がカリフォルニア州のとある街で発生し、やはり拡散ののち収束という結末になるのですが、これにアフリカのさる村、密輸された「猿」、軍事機密、という要素が加わり息もつかせぬつくりです。病原を介する猿が郊外の家で女の子と接近するところなどは特にはらはらします。

ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え! (小学館文庫)
ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え! (小学館文庫) 初版は1994.12 飛鳥新社

映画「アウトブレイク」の原型ともなったともいえるのが本書です。「夏の災厄」「ホットゾーン」ともフィクションですが、これはノンフィクション。体中の穴から出血するエボラ出血熱。アフリカで発現されたそれは何度かの流行をみましたが、それがワシントン近郊の町レストンのモンキーハウスに出現し、その制圧作戦を描いたもの。

復活の日 (ハルキ文庫)
復活の日 (ハルキ文庫) 小松左京著  初版は1964.8 早川書房

ウイルスの蔓延でこちらは南極の各国越冬隊と潜水艦を除き人類が滅亡する、というもの。しかし「復活の日」とあるように復活めざし越冬隊員(映画では草刈正雄)が南極から南米~アメリカまで徒歩で向かうのですね。発表当時は冷戦の最中。最悪の結果もその冷戦がもたらしたものでありました。30年以上も前に読んだものですが、発端となるアルプス山中での出来事、とか南極ではわずかにいる女性隊員が全ての隊員の「母」であり「妻」になった、というくだり、やはり小松サンは男なのだなあ、と思ったり。

それにしてもスケールの大きい小説です。

復活の日 [DVD]
復活の日 [DVD] 映画は1980年6月公開


アンドロメダ病原体 (ハヤカワ文庫 SF (208))
アンドロメダ病原体 (ハヤカワ文庫 SF (208)) マイクル・クライトン作 1969初版  

ニューメキシコのとある小村に落下した衛星を回収に行くと、酒飲みの老人と泣き続けの赤ん坊以外の住民が全員死亡していた・・

アンドロメダ・・・ [DVD]
アンドロメダ・・・ (ユニバーサル・セレクション2008年第9弾) 【初回生産限定】 [DVD] 映画化は1971
 

この「アンドロメダ病原体」と「復活の日」「アウトブレイク」と全て細菌兵器としての側面を持っています。病気も兵器たりうる、という点、けんかをやめられない人間って・・ と小さな生き物にせせら哂われているようです。 


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2009年04月11日

仮想儀礼 上・下(篠田節子著)

仮想儀礼〈上〉
仮想儀礼〈上〉 

仮想儀礼〈下〉
仮想儀礼〈下〉

篠田節子著 上・下 2008.12.20 新潮社

都庁に勤めていた38才の鈴木。趣味で書いていたゲーム系のノベルが縁でその出版関係者の矢口から本格的なゲーム小説を書きませんか?と持ちかけられる。都庁をやめ作家一本で行くことを決めた矢先、夢は脆くも崩れ去る・・ 職も妻も失った鈴木と矢口の二人、はてどうやって食いつないでいくか? とここから物語が始まる。

そして二人が選んだ職業とは、”宗教” それも”ネット宗教”だった。 ネットで宗教と称し悩みに応える。それが予想以上に当たり、美大出の矢口が仏像をこしらえ、集会室をつくり、やがて立派な”教団”となってゆく。大きくなるにつれ信者の動きは鈴木たちの予想を超えるものとなる。そして行き着いた果ては・・?

”宗教”なるものに何ゆえ人が集まるのか? 悩みに対する心のよりどころ? 何故心療内科ではなく宗教なのか? そして金を得ること、とは? ”宗教”を軸に様々な人生模様を描き出す。

前半の筆致はいつもながらスピーディーで、すぱっとした篠田節。分厚い上・下組だが、ジグザグ行路は一体どうなるのか? 一気に読んでしまう。最後は・・ やはりこうなるか・・ 「愁」かなあ
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2008年08月14日

転生(篠田節子著)

転生 (講談社ノベルス シG- 2)
転生 (講談社ノベルス シG- 2) 2007.10

これはほぼ出た時に読んでます。
「死都」と一変、痛快奇想小説です。

生き仏となって僧院に鎮座していた「ラマ」とよばれるチベット仏教の僧がなんと生き返り、悪をやっつけようと試み、暴れまくるというもの。「斎藤家の核弾頭」にも通じるバキーンとした爽快さがあります。なんかハチャメチャな設定と展開。なんたってヒマラヤをぶっとばしインドから気流を呼び込もう、という国家機密まであります。

しかし中国共産党とチベットの関係への批判や、NHKのシルクロード取材のパロディなんかもおりまぜ、うふふと小笑いしてしまいます。
posted by simadasu.rose at 18:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・篠田節子 | 更新情報をチェックする

死都(篠田節子著)

Xωρα(ホーラ)―死都
Xωρα(ホーラ)―死都 2008.4.11

篠田節子の新作を久しぶりに行った図書館でみつけた。これが出たのも知らなかった。

主人公は女性バイオリニスト。最初の場面はヨーロッパのとあるホテルでの夢の場面。傍らに眠る男性は夫ではないのがほどなく分かる。

二人とも”完璧に”家族の目を逃れて逢瀬を20年近く続けてきたとある。しかし出だしから今回の初めての二人の旅行で何か起こると感じさせる書き出し。案の定、予定を変更して訪れた辺境のエーゲ海の島で襲われる中世の都市の幻影と、プレゼントされたバイオリンにまるわる”呪い”が、お決まりといっては何だが彼女の小説によく出てくるモチーフとなって展開する。この現実と幻想が彼女の小節の一番の醍醐味でもある。それが今回は”密会”(彼女の場合、不倫、という感じはしないんですよね、どろどろしてないので)ということでふんわりやさしい感じの作品だ。

最後はぎりぎり家族に知られないで終わる、という結末。しかし男性は死ぬ。がこれはけっこう最初から暗示されている。登場人物それぞれに彼女自身と近辺の人をだぶらせてるのかなあ、などと思ってしまう。

彼女が最初に見た夢は、年老いた老母におしつぶされるもの。これも一人っ子の篠田氏とだぶるのではないか。また主人公のバイオリニストと音楽批評家の夫、って彼女たち夫婦か? とか。また逢瀬を重ねた男性が最後に発したのは妻の名だったが、これは篠田氏が妻の側に立った心境での言葉か、とか。

映画の小品でもけっこう見られるかなあ、などと思いつつ写真でしか知らないエーゲ海とか、幻の都とかを頭に浮かべながら読んだ。
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2007年07月08日

純愛小説(篠田節子著)

純愛小説
純愛小説
 2007.5

4つの新作短編集。
前の「夜のジンファンデル」に続いてまた短編集が出た。今回は題名からも伺えるが、かなりな大人(つまりもう半世紀を過ぎた人たちですね)の愛?というのか、恋愛感情を描いた短編。

一番印象に残るのは「鞍馬」。3人姉妹の人生の終焉を描いたもの。一番上の姉は下二人の妹達を学校に行かせるため結婚もせず父と母を看取り家を守ってきた。母が無くなり空虚感に陥った姉は、一体自分の幸せはなんだったのだろうと思う。その思いが妹たちには伝わらない。60過ぎて外の世界に出た姉の心によぎったものとは? 
 なんとも淋しい余韻の残る話。

「純愛小説」は夫が実は密かに思っていた女性がいた、というそれだけの話だが、これも淋しい残照。

「蜂蜜色の女神」はひょんなことから、年上の(もちろん中年の)女性となぜか強く体を求め合う男性の、これもうなってしまう終わり方。
どれも人生を少し長く生きてきた人が味わえる読後感。

「知恵熱」は大学生の息子に親離れできない母親の話で、これが一番現在進行形か。
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2007年03月03日

夜のジンファンデル(篠田節子著)

夜のジンファンデル
夜のジンファンデル
 2006.8 集英社

篠田氏最新短編集。
最初の「永久保存」 よくまあ書いてくれます。参ります。OL時代に「永久保存」したい上司がいたのか?勤務しつつ回りをすごく観察していたんだなあと思います。しかし。。 うーん、小物から大物までこういう形で「永久保存」になってしまったらさぞ小気味いいでしょう。

次の「ポケットの中の晩餐」は故郷への郷愁がモチーフ。そのふるさとは氏がずっと住み続けている八王子なのかもしれない。最後がノートを破くようなさみしさで終わる。

「絆」はこれもさみしい。冷蔵庫が人格を得ているみたいといった思い込みと氏特有の現実と空想が入り混じる構成。

「恨み祓い師」は老朽貸家に住む年をとらない二人の老女の話。なにげない二人の老女に永遠の母と永遠の「母の娘」の恨みをもたせるのは篠田氏自身が一人っ子で自身の「母の娘」の感情を投影してるのかもなどと思ってしまう。ずっと年をとらないみたい、という周りの不思議感がだんだん高まってくる文の運びはさすが。

「夜のジンファンデル」これ一遍がごく普通の恋愛小説か。

最後の「コミュニティ」も、最初の「永久保存」に劣らず、いやはやこうもいくか、という老朽団地コミュニティの話。

どれもタモリが案内をやってた「世にも不思議な物語」なんかでやったらおもしろそうです。人生も少なからず過ごしてきてちょっと疲れ気味の人にいろいろ余韻のある短編です。
posted by simadasu.rose at 17:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・篠田節子 | 更新情報をチェックする
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