2017年06月20日

海峡の光(辻仁成)

海峡の光 (新潮文庫) -
海峡の光 (新潮文庫) -  1997.2

「函館物語」に続いて「海峡の光」も読んでみた。

青函連絡船乗務員だった私は連絡船の廃止を前に刑務官へと転職し、そこでかつて私をいじめた優等生・花井を受刑者として迎える。刑務官と受刑者としての花井と私、交差するように小学5年から6年のいじめの光景が浮かび上がる。18年前とあるので私は30歳位である。時は廃航迫る昭和63年。物語は私の独白で進行する。

エリートサラリーマンとなったが傷害事件で受刑中の花井、またかつて優等生の仮面の下の残酷さにも気づいていた私。監視する者と監視される者のはずなのに、やはり花井の言動に支配されてしまう私。昭和天皇の崩御による恩赦で出獄の決まった花井に、かつて自分が向けられた言葉「強くならなければだめだ」と言い放つと・・・ 結局花井の呪縛から私はのがれられなかったのか・・・

物語を覆うのは、函館の街の風であり、眼前にある函館山と函館湾、津軽海峡である。実際に函館に行ってきたので、花井と私のにらめっこや勤め場所が無くなる事態に遭遇した乗組員たちの葛藤、という人間の感情のほかに、函館山中腹の自宅から見る海と山、消沈している飲み屋街、父の遭難した函館山裏の今は廃村になってしまった寒川村沖、という函館の地理が生命を持っているように感じる。この、街の息遣いこそ「海峡の光」の魅力であり読後の静かな余韻であると感じた。

そして、「そこに僕はいた」「そこに君はいた」などのエッセイを読むと、父親の転勤で福岡、帯広、函館と社宅住まいで転校した辻氏は、この物語の花井でもあり、函館に生まれ育った私も著者の分身であるように感じた。
posted by simadasu.rose at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・エッセイ、小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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