2017年06月21日

そこに僕はいた(辻仁成)

そこに僕はいた (新潮文庫) -
そこに僕はいた (新潮文庫) -  (初版は1992.2角川書店)

小学生から高校生までの18の出来事を綴る。父親の転勤に伴い福岡、帯広、函館と転校した辻氏、それぞれの地にそれぞれの出会いと出来事があり、語られる友と大人とそして僕は、セピア色の世界で実に生き生きとして、実に個性的。

辻氏は転校生であったが、また転校生もやってきて去って行った。鹿児島弁だったり壱岐島から来たり。また友達の家に行けば、「あんひとはゴサイやけん」と言われ家に帰って母親に「ゴサイ」の意味を尋ねたり、”不思議なことに黒沢のお母さんは家の中でも化粧をしていた”が、ほどなく黒沢の両親は離婚し黒沢は転校してしまった・・ などと子供からみた大人もなにか大人の事情が垣間見える描写だ。

「新聞少年の歌」と書名の「そこに僕はいた」は中学1年の教科書にも載ったようだ。どちらも小学校の中学年の頃の話だから昭和40年代前半の話。新聞少年と、右足が義足のあーちゃんの話。どちらも辻氏には未知の経験をしている少年と遊び仲間のあーちゃん。その理解できない部分の辻氏の心理描写が秀逸だ。「海峡の光」で書かれる私の心理描写とも通じるものを感じる。国語の時間には先生は「この時僕やあーちゃんはなんて思ったのか?」なんて授業で聞いたりテストに出したかも。

僕の記憶の福岡、帯広、函館と、辻氏手書きの絵地図が載っている。


そこに君がいた (新潮文庫) -
そこに君がいた (新潮文庫) -  2002.7

続けてこの「そこに君がいた」も読んだ。これも小中高のエピソードを書いたもの。これは平成6年にベネッセの学習誌「チャレンジ」に1年間同題で連載されたものに書き下ろしを加えたもの。何年生のチャレンジ連載かわからないが、従ってチャレンジの読者のおそらく小学校高学年、中学生あたりに向けたと思われる文体だ。

「そこに僕はいた」にも登場した社宅の隣の読書家のヨーちゃんも登場するが、悲しい結末だ。


音楽が終わった夜に (新潮文庫) -
音楽が終わった夜に (新潮文庫) -  (初版は1996.8マガジンハウス刊)

こちらは辻氏の結成したクバンド、エコーズの結成前夜から解散まで、バンド仲間、音楽についての思いを語る。大学時代のアルバイト先のジーパン屋でのバンド仲間との出会いのエピソードがおもしろい。70年代末から80年代のロックシーン、バンドブーム以前のアンダーグラウンドと言っていいか、ルイードやロフトやアシベなどのライブハウス出演の裏事情など興味深い。エコーズ、名前は知っていたが実は音を聞いたことが無い。これを読むと大阪厚生年金会館とか全国でコンサートをしていたようだ。しかも「そこに僕はいた」にも登場する弟がマネージャーになっていた。

また、小説家の奥泉光さんとブルースバンドを組んだ話が出てきた。それでなんと部屋の整理をしていたら、奥泉氏の「その言葉を」の文庫本が出てきた。
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2017年06月20日

海峡の光(辻仁成)

海峡の光 (新潮文庫) -
海峡の光 (新潮文庫) -  1997.2

「函館物語」に続いて「海峡の光」も読んでみた。

青函連絡船乗務員だった私は連絡船の廃止を前に刑務官へと転職し、そこでかつて私をいじめた優等生・花井を受刑者として迎える。刑務官と受刑者としての花井と私、交差するように小学5年から6年のいじめの光景が浮かび上がる。18年前とあるので私は30歳位である。時は廃航迫る昭和63年。物語は私の独白で進行する。

エリートサラリーマンとなったが傷害事件で受刑中の花井、またかつて優等生の仮面の下の残酷さにも気づいていた私。監視する者と監視される者のはずなのに、やはり花井の言動に支配されてしまう私。昭和天皇の崩御による恩赦で出獄の決まった花井に、かつて自分が向けられた言葉「強くならなければだめだ」と言い放つと・・・ 結局花井の呪縛から私はのがれられなかったのか・・・

物語を覆うのは、函館の街の風であり、眼前にある函館山と函館湾、津軽海峡である。実際に函館に行ってきたので、花井と私のにらめっこや勤め場所が無くなる事態に遭遇した乗組員たちの葛藤、という人間の感情のほかに、函館山中腹の自宅から見る海と山、消沈している飲み屋街、父の遭難した函館山裏の今は廃村になってしまった寒川村沖、という函館の地理が生命を持っているように感じる。この、街の息遣いこそ「海峡の光」の魅力であり読後の静かな余韻であると感じた。

そして、「そこに僕はいた」「そこに君はいた」などのエッセイを読むと、父親の転勤で福岡、帯広、函館と社宅住まいで転校した辻氏は、この物語の花井でもあり、函館に生まれ育った私も著者の分身であるように感じた。
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2017年06月18日

函館物語(辻仁成)

函館物語 (集英社文庫) -
函館物語 (集英社文庫) -  1996.1

4月に函館に旅行した。北海道新幹線で1泊だったが、五稜郭、函館山、青函連絡船の摩周丸、坂の教会群と、とても濃い2日間だった。2日め摩周丸見学の時この「函館物語」が置いてあった。摩周丸の後、教会群を見学していると坂の途中で「函館西高校」の看板?に出くわし長い坂を上がった上に校舎が見えた。その時これは辻仁成の出身校か?と思い帰って検索してみると果たしてそうで、さらに北島三郎も卒業生だった。

坂の教会群と昔の造りの残る木の家が坂にかかっている感じが神戸と似てるなと思い、かれこれ40年近くも前に行ったその青春時代の感慨も呼び起こされ、あのあたり一帯の雰囲気がとても気に入ってしまった。それで函館に興味が湧き、さっそくこの「函館物語」を読んだというわけだ。

この本の著者後書きは1996年6月で、著者が1週間滞在した様子がかかれてあり「私だけが持っているハコダテという異界へと皆さんを連れ出すために本書は書かれた」とある。

氏は中学3年から高校3年までを過ごしているが生まれ年から計算すると昭和49年から52年までである。今回の滞在で4人の函館人と対談している。漁業から「おがっと」(陸に上がり)になり密魚監視員となった方、青函連絡船に終了1月前まで勤務していた方、老舗バー経営者、啄木研究家だ。

文中これまで函館を舞台の小説は「クラウディ」「母なる凪と父なる時化」「バッサジオ」「ニュートンの林檎」と書いてきてこれからも書くだろう、という一文があった。「海峡の光」が無いな、と思ったら海狭の光は1996年12月に発表され芥川賞を取ったのであった。

遅ればせながら「海峡の光」も続けて読んでみた。青函連絡船を降りて函館刑務所に勤める主人公が、かつての優等生であった同級生を受刑者として迎える話である。小学生時の二人と、船を降りて函館に生きる主人公の葛藤が、人口が減って往時の賑わいが無いという函館の街を下敷きにして、なんともいえない余韻の残る小説だった。

で、「海峡の光」は、この1週間の滞在での4人との対談に触発されて書かれたのでは?と思った。あるいは「海峡の光」のための取材旅行だったのかもしれない。

また、読みながら地図があったらよかったのに、と思ったのだが、これも氏は最初入れようと思ったが、読者に自ら足を運び確かめて函館を感じて欲しいということでやめたとあった。

しかし・・ 1995年刊のエッセイ「そこに僕はいた」には「ぼくの記憶の函館」として、氏直筆の手書きの地図があります。


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2017年06月17日

函館に行ってきました2摩周丸・教会

函館9摩周丸外観 2日目はまず青函連絡船の摩周丸を見学。デッキは海上高く雨上がりのせいかすべりそう。湾内に大型客船が寄港して外国人がたくさんいたがこのデッキ見て船旅は向かないかもと思う。

函館7摩周丸制服 乗務員制服

函館8摩周丸船室 運転室。かつて乗船していたであろう方が制服で控えていた。青函連絡船というとやはり遭難事故。洞爺丸1隻かと思っていたがほかに4隻も同時に沈没していた。しかも湾内に錨を下ろし避泊していての沈没だったのだ。水上勉の飢餓海峡の印象が強い。当時の新聞や天気図など詳細な資料があった。

また路面電車に乗り教会群を見学
函館11函館聖ヨハネ教会 屋根が印象的な聖ヨハネ教会

函館12函館ハリストス正教会 函館ハリストス正教会。 神田のニコライ堂のあのニコライ神父がここ函館を拠点として日本正教会を創設した。ここには日本人女性・山下りんの手によるイコン画が掲げてあった。

山下りん―明治を生きたイコン画家 (ミュージアム新書) -
山下りん―明治を生きたイコン画家 (ミュージアム新書) -  北海道立近代美術館刊
TV「美の巨人たち」にも取り上げられた。

また、レストラン五島軒の初代料理長、五島英吉は五島列島五島藩の武士だったが戊辰戦争で敗れ、ここハリストス正教会に匿われ、10年間ロシア料理を学んだ。教会を見終わり歩いていたら偶然五島軒本店の前を通りちょうどお昼でカレーを食べた。 →五島軒HP

函館10カトリック元町教会 カトリック元町教会 
3つの教会どれも絵入りの土足厳禁の看板があるのだが外国人には目にとまらない。

函館13八幡坂 八幡坂 「ロシア極東連邦総合大学函館校」の生徒募集看板が。本校はウラジオストクにある1899創設のロシア国立大学。

函館西高校 函館西高等学校
教会群を見終わり八幡坂の向かいに「函館西高等学校」の看板が。坂道を上がった先が校舎。これは朝遅刻しそうになると大変。確か摩周丸に辻仁成の「函館物語」が置いてあり、もしかすると出身校かと思い調べてみると果たしてそうでした。家に帰りさっそく読んでみました。

函館15旧函館区公開堂 旧函館公会堂
ほかに旧イギリス領事館をみて

函館16れんが倉庫 れんが倉庫を回り岐路につきました。
posted by simadasu.rose at 15:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅・県外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

函館に行ってきました1函館山・五稜郭

北海道新幹線に乗ってみたい、ということで4月25,26日と函館に行ってきました。一泊ではありましたが、函館山ロープウェイ、五稜郭、青函連絡船摩周丸、元町教会群、倉庫群、と密度の濃い2日間でした。
新幹線は八戸までは乗ったことがあったのですが、トンネルを出ると、おおこれが北海道かとまだ寒々とした北の大地をこの目で確認しました。
函館1市電 朝1の新幹線で新函館北斗で、はこだてライナーに乗り換え函館駅着が11時半頃、駅脇のどんぶり横丁で海鮮丼を食べ市電に乗って函館山へ

函館2戦前の建物 十字街で降り函館市地域交流まちづくりセンター脇の南部坂を上りロープウェー乗り場へ。古そうな建物ですが大正12年築の丸井今井呉服店でした。昭和9年の大火で焼失し再建され、昭和44年に五稜郭に移るまで百貨店として使用。その後函館市役所分庁舎分として平成14年まで使用。
旧丸井今井呉服店建物説明

函館3元町 教会とお寺が仲良く共存してる。

函館4函館山から ロープウェーで展望台から見下ろすと、函館市街がよく見えました。が、みるみるうちに曇って行き、なんとこの後20分位後に五稜郭に行く時には雨になりました。天気予報通りではあったのですが、夜、夜景を見に来ると坂の途中でなんとか街の明かりは見えましたが上の展望ハウスは霧と強風。わずか334mの山なのに山の天気の激しさを実感しました。

函館5函館港 港や船をみると心躍ります。

函館6五稜郭 また市電に乗り五稜郭へ。桜には一週間早かった。復元した函館奉行所も見学し湯田川温泉の宿へ。
函館奉行所HP
ラベル:函館
posted by simadasu.rose at 11:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅・県外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月11日

ミュシャ展

IMG_1474[1].JPG 国立新美術館2017.3.8〜6.5

スラブ叙事詩を見たくて行ってきました。ミュシャといえばアールヌーボーのポスターのイメージですが、この自国チェコの民族の興隆と誇りを謳った20枚の文字通りの大作が会場いっぱいに、天井高く繰り広げられていました。なんといっても大きさにまず圧倒されます。そしてチラシにも使われているまず第1番目の、こちらを見据える女性と、天にそびえる司祭、薄いブルーがまさに民族の夜明け、しかも異民族におびえるところから始まる、悲しいと表現していいのか、大陸の中の一隅の自国を思わせます。

全20枚、圧倒され通しですが、チェコの歴史、宗教の知識が無く、十分には絵を理解できませんでしたが、あの空間と、各絵の中の人物たちからはこちらを射抜く眼光を感じ、ミュシャの並々ならぬチェコ、民族への思いが感じられました。

国立新美術館 ミュシャ展サイト 「作品紹介」をクリックすると20枚の絵と説明がある。

ミュシャ展 -
ミュシャ展 -  詳細な図録

ミュシャのすべて (角川新書) -
ミュシャのすべて (角川新書) -  新書版で値段も手ごろだが、スラブ叙事詩の全解説がある。

アルフォンス・ミュシャの世界 -2つのおとぎの国への旅- -
アルフォンス・ミュャの世界 -2つのおとぎの国への旅- -  2016.8 海野弘著
副題にもあるようにアール・ヌーボーとスラヴ叙事詩とともにミュシャの生涯も解説。アールヌーボー美術に造詣の深い海野弘著。

物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書) -
物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書) -  チェコの歴史をきちんと知りたい時に。

図説 チェコとスロヴァキア (ふくろうの本) -
図説 チェコとスロヴァキア (ふくろうの本) -  ビジュアルにつかみたい時に。

IMG_1476[1].JPG 同時開催の草間彌生展にちなみ樹木もお化粧
posted by simadasu.rose at 11:56| Comment(0) | TrackBack(0) | アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月10日

ベルギー奇想の系譜展(宇都宮美術館)

ベルギー奇想の系譜展〜ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで
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4月2日に行ってきました。ベルギー、フランドル地方で写実の伝統の上に発展した幻想的な絵画を紹介。
15,6世紀のフランドル絵画から現代アートまで約120点の展示があり、およそ500年にわたる「奇想」の系譜をお楽しみ下さい、とありました。このポスターにもなっているのがやはり目玉かな。ボス工房作となっていますが、細々した登場人物をいくつか切り取って動くようにしてありました。見過ごしてしまいがちな細部もよく分かりこの仕掛けはとてもよかったです。

展示は時代順なっていて現代のところはポール・デルボーとともにマグリットの「大家族」が。マグリットってベルギー人だったのですよね。ああ、20年前年に買ってよかったじゃないですか。宇都宮美術館開館の際、高価な買い物として批判もされたこの「大家族」。それが開館20周年記念展につながったのですね。

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宇都宮美術館(2017.3.19〜5.7) ベルギー奇想の系譜展公式サイト
兵庫県立美術館(2017.5.20〜7.9)
Bunkamuraザ・ミュージアム(2017.7.15〜9.24)

IMG_1470[1].JPG ベルギーワッフルと大家族皿を購入
posted by simadasu.rose at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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